皆さま、こんにちは。
僕が現在住んでいる箱根・強羅も、紅葉シーズンに入ってまいりました。周囲を囲む山々も少しずつ色づいてきており、先日の連休は駅周辺も大混雑していました。
最近は、仙石原にある紅葉の名所、長安寺について書いたこちらの記事へのアクセスが急増しています。読んでくださり、ありがとうございます。
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さて数日前に、オーストラリアに関する大きなニュースが飛び込んできました。
(画像:11月1日付BBC NEWSより 「ban」は「禁止」という意味の言葉です。)
ウルル(エアーズロック)登山が、2019年10月26日から全面禁止となります。
ウルルへ行ったらぜひ登山に挑戦してみたい!と思っていた方も大勢いらっしゃると思います。登山が禁止されたら、果たしてウルルに行く価値は下がってしまうのか?今日はウルル登山の是非と、登山が禁止になる理由についても触れながら、考えてみたいと思います。
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目次
おさらい~ウルルとは~
まずはウルルについておさらいしてみたいと思います。
サンセットビューポイントにて、筆者撮影。2016年8月
一昔前は「エアーズロック(Ayers Rock)」の呼称が一般的だったこの岩山は、オーストラリア大陸の中央部に位置する、世界で二番目に大きな一枚岩。
近年では、先住民アボリジナルの言葉である「Uluru」という呼称が定着しています。
世界一大きいんじゃないの?という方もいらっしゃると思いますが、世界最大の一枚岩は同じオーストラリアの西部にある「マウント・オーガスタス」で、なんとウルルの2.5倍の大きさがあります。
それでもウルルのほうが断然有名で世界遺産にも登録されているのは、その文化的な背景や、シンプルながら圧倒的な迫力の造形などが理由に挙げられるのではと思います。
「多くの頭」の意味を持つカタ・ジュタ。
よくよく見たら誰もカタ・ジュタを見ていない写真を載せてしまった。
50kmほど離れた場所に位置するカタ・ジュタと共に、ウルル=カタ・ジュタ国立公園 (Uluru-Kata Tjuta National Park)として世界遺産に登録されています。
なぜウルル登山は禁止になるのか
ウルルは先住民の聖地
ウルルは、その周辺地域に伝統的に暮らしてきた「アナング」と呼ばれる先住民の人たちにとって、非常に大切な聖地とされています。
アナングのアーティストによる作品。2016年にアリススプリングスにて購入。
「My Country」 by Alison Munti Riley
現在ウルルの所有権はアナングの人々にあり、2084年までのリース契約という形でオーストラリア政府に貸し出されています。実際に現地を訪れると分かりますが、ウルルにはアナングの人たちの様々な神話が残っており、男性だけの聖地や、逆に女性しか訪れることの許されない聖地などが存在しています。
ウルルの周りを歩くトレッキングコースには、しばしばこのような看板が見られます。
この先に神聖な場所があるため、写真や動画の撮影を行わないよう求めるサインです。
ウィキペディアを見ると「アボリジニの間では一部の祭司以外は登山が認められていなかった」とありますが、どうもこれは誤りのようで、実際にはアナングの人たちがウルルに登ることは無いそうです。
大切な聖地に外部の人間が登っていくことは当然気持ちの良いことではなく、アナングの人々の間からは、長年登山を止めるよう求める声が挙がっていました。
ウルル登山は、実はとても危険
ウルルと言えば登山、となんとなくイメージしている方も多いと思いますが、ウルルは岩山。それも表面はツルツルで、かなりの斜度があります。
こちらは登山道から離れた場所ですが、岩の質感はイメージしていただけるかと思います。
現在ウルル登山が認められているのは、ただ一か所だけある登山道のみ。その入り口が開いているのは年間100日あるかないかと言われています。気温が高すぎる日や、風が強い日、雨の日などは閉鎖されており、登山は一切禁止。また、儀式などアナングの文化的理由で登山道が閉じられている場合もあります。
自然豊かなオーストラリアには多くのトレッキングコースがあり、そのスタート地点にはコースの難易度を示す看板が立っています。「初心者や家族連れでも楽しめる簡単なコース」であったり、「多少の経験があることが推奨される中級者向けコース」であったり…。
インターネット上には、過去に登ったことのある日本人の方のコメントがたくさんあるので、なんとなく簡単そうなイメージを抱きますが…
ウルル登山道の入り口にある看板が示す難易度は、なんと最高レベルの5。豊富な運動経験と十分な装備を持っていることが推奨されるもので、当然ケガや、最悪の場合命の危険を伴う可能性があります。誰でも簡単に登れそうなイメージがありますが、フラッと行って登るべきところではありません。
ウルル登山の危険度を示す看板
日本語で「命を大切にしてください」という警告文まで出ています。
実際、日本人と思しき方が中学生くらいの娘さんを連れて上がっていくのを見ましたが、その光景に目を疑ってしまうほど、ウルルの岩肌は危険に見えました。
それでは、実際に登山道の写真をご覧ください。
こちらがウルルの登山道。登山というよりは岩登りといった感じ。
岩肌に打ち込まれた鎖を掴んで登っていきます。ここを抜けると後は楽になると聞きますが、ここでもし手を離せば下まで一気に落下してしまうでしょう。後ろの人を巻き込んで転落する可能性も十分あると思います。
過去には転落や、暑さによる脱水症状などが原因で、死者も多く出ている場所です。僕は2016年の8月にウルルを訪れましたが、その少し後、旅行者が登山中に身動きが取れなくなり、ヘリコプターで救助されたというニュースが流れました。
ウルル登山の現状
僕は以前から、ウルルがアナングの聖地であること、彼らが登山をしてほしくないと思っていることは知っていたので、一部の人がそうと知らずに登っているだけだと思っていました。
しかし実際にウルルを訪れてみると、そうではないことが分かりました。
ウルルに隣接し、アナングの文化を紹介しているカルチャーセンターでも、あるいは登山道のすぐ手前に設置された看板でも、「登らないでください」という表示が出ているのです。しかもわざわざ日本語を含む数か国語での翻訳付きで、です。
こちらが登山道入り口のすぐ手前に設置された看板。
日本語を始め、ドイツ語、スペイン語、フランス語などでアナングの考えが記されています。
看板には日本語でこのように書かれています。
■
”ウルルに登らないで下さい
訪問者が『登山』と呼ぶものは、
伝統的所有者のアナング族にとって神聖な意味があります。
これは本当に重要で神聖なことです。
ウルルに登るべきではありません。
登ることはこの地において本来すべきことではありません。
すべきことは、万物に耳を傾けることです。
これが正しいことです。登らないことが適切な行為です。
私たちは私たちの土地を訪問する人々に教えを説き、また保護することに責任があります。
登山は危険であり、これまでに多くの方が登山中に亡くなり、また怪我をしてきました。
私たちは私たちの土地で人が亡くなったり、怪我をしたりすることを非常に悲しく思います。
私たちはあなたを心配し、あなたの家族を心配しています。
私たちの伝統的法律は私たちに適切な行いをするよう教えています。
私たちはあなたにウルルに登らないことで、
私たちの法律を尊重するよう求めます。”
■
実際に訪れるまで、登ってほしくないという思いがここまで強く提示されているとは想像していませんでした。
僕がウルルを訪れた際は登山道が開いており、少なくない数の観光客が登っていましたから、これはとてもショックなことでした。この人たちは、手前の看板の言葉を見たのだろうか、その上で登ることを決めたのだろうかと思いました。
ウルルに登る人たち
日本人観光客の方に、「今日は登ってきたんですか?」とも尋ねられました。恐らく看板は見ておらず、カルチャーセンターにも訪れていない方だったのだと思います。とても複雑な気持ちになりました。
しかし現状では、「登らないでください」と書かれた看板がありながらも登山道があり登山が許可されているという、矛盾した状態になっているのです。登山道さえ開いていれば、登るか否かは各自の判断に委ねられます。
オーストラリア国内はもちろん、世界中から観光客が訪れるウルル。せっかく来たのだから…と、登ることを選択する人がいるのもまた当然だと思います。
なぜこのような歪みが生じているのか?ウルル観光に伴う収益の一部がアナングの人たちの収益にもなっており、登山禁止によって観光客が減少、収益も悪化するのではという懸念があったようです。
しかし近年、登山をする人の割合が下がってきていることから、遂に完全禁止となることが決まったようです。
あなたはウルルに登りたいですか?
2017年時点では許可されているウルル登山ですが、果たしてこのブログを読んでくださっている皆さまは登ってみたいでしょうか?
僕個人としては全く登りたいとは思いませんし、今回の措置は大賛成、むしろ遅すぎたくらいだと思っています。
信仰・崇拝の対象が岩山という形だっただけで、日本人に例えるならば伊勢神宮であったり、東大寺の大仏であったり、屋久島の縄文杉のような存在であると思います。
毎日たくさんの外国人観光客が訪れて、眺めが良いからと鎖を打ち込んで登っていたら、そしてそのせいで亡くなる人が出てしまったら、どう感じるでしょうか?
僕が参加したツアーのガイドさん(白人の男性)はこんな話もしてくれました。
「ウルルに登り始めたら当然トイレなんか無いよ。行きたくなったらどうする?その辺でするしかないよね。それがどういうことだか分かるかい?」
登るだけならまだしも、自分たちが大切にしているものがトイレ代わりにされ、日々汚されていくとしたら…これ以上の屈辱はないでしょう。
「登山禁止反対派」の意見について考える
今回のニュースに対するネット上の反応を見ると、賛成、あるいは残念だけど仕方ないという意見が多いように感じました。そして一部には、禁止にするべきではないというような論調の意見もありました。それらの一部について考えてみたいと思います。
・「散々先住民を虐げてきた白人が、今更そんなことを言うなんておかしい」
これはまあ確かにそうかもしれませんが、論点が違う。批判のための批判、だと思います。
オーストラリアに入植した白人が先住民を迫害した歴史や、先住民が抱える様々な問題とそれに伴う差別意識は間違いなくありますが、オーストラリア人の意識が変わってきているのもまた事実です。
例えば、これまで一般的に用いられていた「アボリジニ(Aborigine)」という呼称は差別的であるとして、現在オーストラリア国内では使われなくなってきています。新聞や雑誌などのメディアでは、少し柔らかい響きがあるとされる「Aboriginal People」や、先住民を表す「Indigenous People」、「Native Australian」などの表現を目にすることが多いです。
従来主流であった「エアーズロック」という呼び名から、現在はアナングの言葉(Pitjantjatjara語)である「ウルル」という名称が正式なものとなっているのはご存知のとおり。
また、僕が参加したツアーは現地のツアー会社のものでしたが、最初から登山は行程に含まれていませんでした。また、登山道の前でガイドさんからその旨の説明もありました。
現在、オーストラリア国内のツアー会社で登山をパッケージしているところはほぼ皆無だそうです。そして、登山を売りにしたツアーはむしろ日本の旅行会社に多くあります。
・「登山を禁止すれば登山料がなくなり、先住民の生活に影響が出る」
これは一見正しい意見に見えますが、ちょっと微妙なところです。
というのも、ウルルを登るのに登山料はかからないのです。
ウルル=カタ・ジュタ国立公園を訪れた観光客は、公園入場チケット代の25豪ドル(3日間有効・2017年現在)を支払う必要がありますが、その先はカルチャーセンターのショップで買い物でもしない限り、特にお金はかかりません。登山道が開いていれば、あとは登りたい人が登っていくだけです。
つまり、登山の禁止が直接の収入減になるわけではないのです。
登山を禁止したことによって観光客が大幅に減少すれば、当然入場料による収入も減少しますが、その影響は施行から数年後に明らかになってくることでしょう。
・「”世界遺産”は人類みんなの遺産なんだから、一部の人が独占するのはおかしい」
これは随分極端な意見ですが、本気で仰っているのでしょうか。
まず、ウルルの所有権がアナングにあることはオーストラリアが国として認めています。
また、世界遺産についての認識にも誤りがあるように思います。
ユネスコが定める世界遺産には、「文化遺産」「自然遺産」「複合遺産」の三つがあり、ウルルは「複合遺産」にあたります。
複合遺産は「文化」と「自然」の両方の価値を持つもので、有名なところではギリシャのメテオラや、トルコのカッパドキアなどが該当します。
よって「世界遺産」としてのウルルを語る上で、アナングの伝統的文化の存在を外すことはできません。
当初、自然遺産として登録されたウルルが複合遺産に変わったのは、1994年のこと。それ以前であれば、この意見もギリギリありだったかもしれませんが、現在では完全に論外です。
◆
いかがでしたでしょうか。
もちろん「絶対に登るな」ということはできませんが、出来ればあまり登ってほしくないな、というのが個人としての意見です。頂上からの眺めは、それはそれは素晴らしいものだと思います。でもその眺めは果たして、登ってほしくないという人たちの声を無視してまで見たいものでしょうか?
筆者個人の意見では、例え登ることができなくても、ウルルの圧倒的な存在感を感じることは大変素晴らしい経験になります。
色々な国からの参加者と、焚火を囲んでキャンプ。地べたに寝袋を敷いて、豪快に野宿をしました。
見たこともないような満天の星空を眺めながら眠りにつく、夢のような経験でした。
地元のアナングの人たちから、アボリジナルアートを直接購入。
ウルル観光のハイライトである、サンセットとサンライズ。
ウルル登山を経験した方でも、こちらのほうが印象に残ったという意見も多く見られました。
この場所を訪れたことは、生涯の思い出です
見渡す限り何もない、広大なオーストラリア大陸を車やバスで走り続けて、遂に巨大な岩山が見えてきた時の胸の高鳴りは、とても言葉では言い表せません。例え登山ができなくとも、ぜひ一度ウルルを訪れてみてください。
これからの2年間で、駆け込み登山に行く人も増えることでしょう。もしこれから登ろうと考えている方がいらっしゃいましたら、その前にほんの少しの時間でもいいので、本当に登るべきなのか考えてみて頂きたいと思います。
長い長い道のりの末、遂に姿を現したウルル!
…と思いきや、こちらはウルルから東へ約130kmほどの場所にあるMt.Connerという山。こちらもけっこう凄いのに、ウルルが近くにあるせいで偽物扱いされている、かわいそうな存在。
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